ファラデーの伝- ガラスの研究・磁気から電流・アラゴの発見 -

五、ガラスの研究

 翌年にはローヤル・ソサイテーが、ヘルシェル、ドロンド、並びにファラデーの三人に、光学器械に用うるガラスの研究を依頼した。化学の部分はファラデーが受け持ち、ドロンドは器械屋の立場から試験を行い、ヘルシェルは天文学者なので、光学の方面から調べるというつもりであった。五年間引きつづいて研究をした。

 これに聯関して起った事件は、一八二七年にファラデーの実験室に炉を造ったので、その番人に砲兵軍曹のアンデルソンという人を入れた事である。ガラスの研究が済んだ後も、引き続いてファラデーの助手をつとめ、一八六六年に死ぬまでおった。良く手伝いをした人だが、その特長というべきは軍隊式の盲従であった。

 アボットの話に、次のような逸話がある。アンデルソンの仕事は炉をいつも同じ温度に保ち、かつ灰の落ちる穴の水を同じ高さに保つのであるが、夕方には仕舞って、何時も家に帰った。ところが、一度ファラデーは帰って宜しいということをすっかり忘れておった。翌朝になって、ファラデーが来て見ると、アンデルソンは一夜中、炉に火を焚き通しにしておった。

 この年、デビーの推選で、協会の実験場長に昇進し、従って講義の際に助手をしなくてもよくなった。

 一八二九年には、ガラスの研究の結果について、バーカー記念講義をなし、翌年に研究を終って報告を出した。ローヤル・ソサイテーでは、良いガラスは出来たが、もっと大きいのを造ることを考えてくれという注文であったが、ファラデーは他の方面の仕事が急がしいからというて、断わった。それゆえ、大きいレンズを作って、望遠鏡の改良をするというような実用的の成功までには至らなかった。しかし、万事塞翁が馬で、未来の事はちょっとも分らぬものである。ファラデーがこの際作った鉛の硼硅酸塩ガラスがある。重ガラスといわれるものであるが、このガラスの切れを使って、後にファラデーは磁気の光に対する作用や、反磁性を見つけることに成功したのである。それゆえもしこのガラスが無かったならば、この二大発見はもっと遅れた筈だともいえる。

 ガラスの研究をやっておった間にも、ファラデーは他の研究もした。すなわち、ナフサリンを硫酸に溶して、サルホ・ナフサリック酸を作ったり、「化学の手細工」という本を書いたりした。

 これで、ファラデーの研究の第一期は終った。この間に発表した論文は約六十で、その中六つがおもなもので、発見としては、化学の方で、ベンジンとサルホ酸。物理の方では、塩素の液化と電磁気廻転とである。

第二期の研究

六、磁気から電流

 ファラデーは電磁気廻転を発見してから、電流と磁気との関係について、深く想いを潜めておった。もちろん、この関係に想いをめぐらしていた者は、ただにファラデーのみでなく、他にも多くあった。その中で成功した一人はスタルゲヲンで、電磁石の発見をした。鉄心を銅線で巻き、銅線に電流を通ずると、鉄心が磁気を帯ぶるというのである。

 かく、電流を用いて磁気を発生することが出来るからには、逆に磁気を用いて電流を起すことも出来そうなものだと、ファラデーは考えた。前に述べた通り、一八二二年にも、ファラデーは手帳に、「磁気を電気に変えること」と書きつけた。一八二四年十二月には、銅線のコイルの内に棒磁石をし込んで、いろいろと実験して見たが、結果は出て来なかった。翌二五年十一月にも、電流を通じた針金が近傍にある他の針金に作用を及ぼしはせぬかと考えて、これを電流計につないで、いろいろ調べて見たが、やはり何の結果も出て来なかった。その後も、あれやこれやとやっては見たが、何時も結果が出て来なかった。

 それでも失望しないで、適当な実験の方法を見出せないためだと思って、繰り返し繰り返し考案をめぐらした。伝うる処によれば、この頃ファラデーは、チョッキのかくしに電磁回線の雛形を入れて持っていたそうで、一インチ位の長さの鉄心の周囲に銅線を数回巻きつけたもので、暇があるとこれを取り出しては、眺めていろいろと考えていたそうである。なるほど、銅線と鉄心。一方に電流が流れると他方に磁気を生ずる。反対に出来そうだ。磁気を鉄心に与えて置いたなら、銅線に電流が通りそうである! しかし、これは幾回となくファラデーがやって見て、何時も結果が出なかったことである。

 否、ファラデーだけではない。他の学者もこれを行って見たに違いない。ただファラデーのように、結果無しと書いたものが残っておらぬだけだ[#「結果無しと書いたものが残っておらぬだけだ」は底本では「結果無しと書いたものが残っておらぬだげだ」]。多分は、そう書き留めもしなかったろう。フランスのアンペアやフレネルも、いろいろとやったことは確かだが、結果は出なかった。

七、アラゴの発見

 ところが、これとは別に次のような発見が一八二四年に公表された。フランスのアラゴは良好な羅針盤を作って、磁針を入れる箱の底に純粋の銅を[#「純粋の銅を」は底本では「鈍粋の銅を」]用いた。普通ならば、磁針をちょっと動すと、数十回も振動してから静止するのだが、この羅針盤では磁針がわずか三、四回振動するだけで、すぐ止まってしまう。アラゴは人に頼んで、底の銅を分析してもらったが、少しも鉄を含んではいなかった。

 そこで、アラゴの考えるには、銅が磁針の運動を止めるからには、反対に銅を動したなら、磁針は動き出すだろうと。すなわち、磁針の下にある銅を廻転して見た。果して磁針はこれに伴って廻り出した。なおこの運動は、磁針と銅との間に紙のような物を入れて置いても、少しも影響を受けない。その後には軸に取り附けた銅板の下で磁針を廻すと、上方の銅板が廻り出すことも確かめた。

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入力:松本吉彦、松本庄八 校正:小林繁雄

このファイルは、青空文庫さんで作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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